子どもの「なぜ?」「やってみたい」という気持ちを、学びにつなげる方法の一つが探究学習です。
幼児期の探究学習は、決められた知識を覚えることだけを目的とせず、遊びや生活の中で疑問を持ち、試したり比べたりしながら考えを深めていく学び方です。こうした経験は、好奇心、粘り強さ、協調性など、いわゆる非認知能力に関わる力を使う機会にもなります。
ただし、探究学習に取り組めば、すべての子どもに同じ変化が現れるわけではありません。子どもの発達段階や興味、活動環境、周囲の大人の関わり方によって、経験の仕方は異なります。
この記事では、幼児期の探究学習の考え方、非認知能力との関係、期待できるメリット、プリスクールでの活動例、家庭でできる関わり方を解説します。
幼児期の探究学習とは
幼児期の探究学習とは、子どもが遊びや生活の中で感じた疑問や興味を出発点に、観察したり試したりしながら学ぶことです。
例えば、園庭でダンゴムシを見つけた子どもが、「何を食べるのだろう」「暗い場所が好きなのかな」と疑問を持ったとします。その疑問について、図鑑で調べる、実際に観察する、友だちと話すといった活動へ広げていくのが、探究的な学びの一例です。
幼児期の探究的な学びは、高等学校の「総合的な探究の時間」とは教育課程上の位置付けが異なります。幼児期では、日々の遊びや生活の中で、子どもの好奇心を広げながら、考えたり表現したりする経験を重ねていきます。
知識を覚える学びと対立するものではない
探究学習は、知識を覚える学習を否定するものではありません。
子どもが疑問について考えるためには、絵本や図鑑で新しい情報を知ったり、大人から言葉や考え方を教えてもらったりすることも必要です。知識を得ることと、自分で考えて試すことは、互いに補い合う関係にあります。
大切なのは、覚えた内容をそのまま答えるだけでなく、「なぜだろう」「ほかの方法はあるかな」と考える機会を持つことです。
子どもだけに任せる学びではない
探究学習では子どもの興味を大切にしますが、すべてを子どもだけに任せるわけではありません。
保育者は子どもの様子を観察し、興味に合った道具や資料を用意したり、「どこが違うかな」「次はどうしてみたい?」と問いかけたりします。安全に関わることや、理解を助けるために必要な情報を伝えることもあります。
答えをすぐに教えすぎず、必要なときには適切に支えることが、保育者や周囲の大人の役割です。
探究学習と非認知能力の関係
非認知能力とは、学力テストの点数だけでは捉えにくい、意欲、感情、行動、人との関わりなどに関係する力をまとめた呼び方です。
何を非認知能力に含めるかは研究や教育機関によって異なりますが、一般的には次のような力が挙げられます。
- 興味を持って取り組む力
- すぐに諦めず、方法を変えながら試す力
- 自分の気持ちや行動を調整する力
- 友だちの話を聞き、協力する力
- 自分の考えを言葉や作品で表現する力
非認知能力は、認知能力と完全に分かれているものではありません。例えば、友だちと相談しながら積み木の橋を作る活動では、協力する力だけでなく、形や数について考える力、言葉で伝える力も同時に使います。
探究的な活動は、こうした力を実際の遊びの中で使う機会になります。ただし、活動に参加するだけで能力の向上が保証されるものではなく、子どものペースに合った環境と大人の支援が重要です。
幼児期の探究学習で期待できるメリット
自分なりに考える経験を重ねられる
探究的な活動では、子どもが疑問を持ち、予想し、実際に試しながら考えを深めます。
例えば、「どうすれば高い積み木の塔が倒れにくくなるか」を考える場合、積み方を変える、土台を広くする、使う積み木を選び直すなど、さまざまな方法を試せます。
こうした経験は、正解を覚えるだけでなく、自分なりの理由を考えたり、結果に応じて方法を見直したりする機会になります。
興味を持って取り組む機会になる
自分が気になったことや、やってみたいことから始まる活動は、子どもが意欲を持って参加しやすい傾向があります。
思いどおりにならなかったときも、周囲の大人が結果だけを評価せず、「どこまでできたかな」「次は何を変えてみようか」と関わることで、もう一度試す経験につながります。
ただし、集中できる時間や興味の示し方には個人差があります。長時間取り組むことだけを良い姿とせず、観察する、触って確かめる、話を聞くなど、それぞれの参加方法を尊重することが大切です。
友だちと考えを共有できる
複数の子どもで一つの活動に取り組むと、自分とは異なる考えに触れる機会が生まれます。
役割を相談したり、使いたい道具について話し合ったりする中で、自分の考えを伝えることや、相手の話を聞くことを経験できます。
意見が合わない場合も、保育者が間に入りながら、お互いの気持ちを確認し、解決方法を一緒に考えていきます。
考えたことを表現する経験ができる
探究活動では、調べたり試したりして終わるのではなく、気づいたことを絵、工作、写真、言葉などで表現することがあります。
人に伝えようとすることで、「何が面白かったか」「どのように試したか」を振り返るきっかけになります。上手に発表することが目的ではなく、子どもなりの方法で経験を表すことが大切です。
探究的な学びの基本的な流れ
幼児期の探究活動は、必ずしも決まった順番で進むわけではありませんが、一般的には次のような経験を行き来しながら学びが広がります。
- 気づく・疑問を持つ:遊びや生活の中で、不思議に思うことや気になるものを見つけます。
- 予想する・試してみる:「こうしたらどうなるかな」と考え、観察や実験、制作などを行います。
- 比べる・考え直す:予想と結果を比べたり、友だちの方法を見たりしながら、新しいやり方を考えます。
- 表現する・共有する:気づいたことを絵や作品、言葉などで表し、周囲の人と共有します。
一度で答えが出る必要はありません。試してみた結果から新しい疑問が生まれ、再び観察や制作に戻ることも、探究的な学びの一部です。
プリスクールで行われる探究活動の例
探究的な学びを取り入れている一部のプリスクールでは、一つのテーマについて数日から数週間かけて活動するプロジェクトワークが行われています。
例えば、「橋」をテーマにする場合、次のような活動が考えられます。
- 身近な橋の写真や絵本を見る
- 橋の形や使われている材料について話す
- 積み木や段ボールで橋を作る
- 人形やおもちゃを載せて強さを確かめる
- 倒れた理由を話し合い、作り直す
- 完成したものや気づいたことを紹介する
一つの活動の中で、形や数について考えること、道具を使うこと、友だちと相談すること、自分の考えを表現することなど、さまざまな経験が重なります。
ただし、テーマの決め方や活動期間、保育者の関わり方は施設によって異なります。すべてのプリスクールが同じ方法で探究活動を行っているわけではありません。
遊びが広がる環境を整える
幼児期の探究では、特別な教材だけでなく、積み木、砂、水、葉、石、段ボールなど、身近なものも学びの材料になります。
保育者は子どもの関心を観察し、必要に応じて道具を増やしたり、関連する絵本を用意したりします。子どもが安全に試行錯誤できるよう、空間や時間を確保することも大切です。
家庭で子どもの探究心を支える関わり方
子どもの疑問をすぐに否定しない
子どもから「なぜ?」「どうして?」と聞かれたとき、すべての質問に大人が正しく答える必要はありません。
分からないときは、「大人も分からないな」「どうしてだと思う?」と返すことで、一緒に考えるきっかけをつくれます。
忙しくてすぐに向き合えない場合は、「あとで一緒に調べよう」と伝えるだけでも構いません。質問の多さだけを評価するのではなく、子どもが見たり触ったりして確かめようとする姿も大切にしましょう。
一緒に観察したり調べたりする
身近な植物や虫を観察する、図鑑を開く、実物を比べるなど、家庭でもできる探究活動は多くあります。
インターネットを利用する場合は、保護者が付き添い、年齢に合った安全な情報を選びましょう。検索結果をそのまま答えとして伝えるのではなく、実際に観察したことと比べてみるのも一つの方法です。
使い方が一つに決まっていない素材を用意する
積み木、粘土、紙、段ボール、空き箱など、自由に組み合わせられる素材は、子どもが自分なりの使い方を考えるきっかけになります。
作品をきれいに完成させることより、どのように考え、何を試したかに目を向けましょう。崩れたり思いどおりにならなかったりしたときも、すぐに大人が直さず、「次はどうしてみる?」と問いかけることで、考え直す機会をつくれます。
探究学習を取り入れた施設を選ぶときのポイント
探究学習を掲げている施設でも、教育内容や運営方針は異なります。「探究」「非認知能力」といった言葉だけで判断せず、実際の活動や保育者の関わり方を確認することが大切です。
- 子どもの興味や発達段階に合わせて活動しているか
- 自由に遊ぶ時間と、計画された活動のバランスが取れているか
- 保育者が一方的に指示せず、必要な支援も行っているか
- 結果だけでなく、試した過程や子どもの気づきを見ているか
- 子どもが安心して過ごせる環境や安全管理が整っているか
- 活動内容や子どもの様子を保護者と共有しているか
「なぜ?」という質問が多い子だけが、探究学習に向いているわけではありません。言葉で表現することが少ない子でも、じっくり観察する、手を動かす、繰り返し試すなど、さまざまな方法で探究できます。
子どもが安心して参加できているか、興味やペースを尊重されているかを見ながら、その子に合う環境を考えましょう。
幼児期の探究学習について理解し、子どもの学びを支えよう
幼児期の探究学習は、子どもの疑問や興味を出発点に、観察、試行錯誤、対話、表現などを経験する学び方です。
こうした活動は、考える力だけでなく、粘り強く試すこと、友だちと協力すること、自分の考えを伝えることなど、非認知能力に関わる力を使う機会にもなります。ただし、特定の能力が必ず伸びるわけではなく、子どもの発達や興味、周囲の環境によって経験の仕方は異なります。
探究学習と知識を学ぶ活動のどちらか一方を選ぶ必要はありません。子どもの「なぜ?」を大切にしながら、必要な知識や安全な環境を周囲の大人が支えることが、幼児期の豊かな学びにつながります。

